東京高等裁判所 昭和30年(う)2690号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕原判決はAが候補者Bと共謀してその選挙運動者C、Dをしてその選挙区内の選挙運動者及び選挙人に供与させる目的でその買収資金として金員を交付した事実を認定しAについて公職選挙法第二二一条第一項第五号の交付罪の成立を認めている。これに対して論旨は、買収資金供与については右ABCDは法律上いわゆる共謀者であつて、本件AからCDへの金員の授受は右共謀者内部における金員供与実行のための準備行為にすぎないから何らの犯罪も構成しないと主張する。
〔判旨〕選挙に際し数人が選挙運動報酬の供与又は投票の買収をなさんことを共謀した場合において、右供与行為実行の担当者をして現実にこれを実行させる必要上、共謀者間において順次これが資金を授受する行為はなくとき現実に選挙運動者又に選挙人に供与された部分に関しては、単に共謀者内部の関係における金員供与実行のための準備行物に外ならないものであるから、それのみでは罪とならないものであると解するのを相当とするが、原判決は被告人Aと本件金員の受領者C及びDとの間に、右金員をもつて当該選挙区内の選挙運動者又は選挙人に運動報酬を供与し又は投票を買収することの共謀をなしたものとは認めていないのであり、記録を検討すれば、所論の如き供与の共謀があつたものとは解し難く、原判決の認定竝びに法令の解釈適用は正当であつて何ら所論のような過誤はない。
〔説明〕現在公職選挙法第二二一条第一項第五号に規定するような交付罪受交付罪は従前にはなかつたものでこの規定がおかれてから供与罪受供与罪とこれらの関係が如何に矛盾なく理解すべきか問題がそこに生ずるに至つた。選挙運動者が買収資金の交付を受けこれを更に供与又は交付したとき受交付罪は後者の供与又は交付に吸収されて別個の犯罪を構成しないというのが判例である。然し受交付した資金の一部を手許にとどめ残りを更に交付又は供与したときは如何この点については二八・六・一三第十刑事部二八(う)第一三一〇号事件判決(高裁判例集第六巻七号八三九頁参照)の考え方が一応通説であらう。更に本件設例によつてABとCDか共謀と認められる限りにおいてはABについて供与罪も交付罪も成立しないとする判例二八・六・二〇第十刑事部二八(う)第一二四七号事件判決(同集第六巻八号九六三頁参照)が存するがこれ又正当であろう。ところが本件ではABとCDが共謀と認めて論旨は議論している如くであるのに、判決は共謀でないとして別の前提で判示しているから、問題は自ら事実認定のところに移つている。然し明瞭にCDがABの予想だにしない宛先に自己の発意で供与行為をしているような場合は格別、ABがCDにおいて更にこれを買収に使用することを知つて否むしろ希望して金銭を授受しているとき右の判例理論における共謀者と認めるか、或は共謀者と認めないまでも共謀者として如何なる犯罪も構成することなしとする理論を修正し適用する余地はないか、更には交付罪というのは如何なる本質を持つているか更に深く考察すべきものがある。